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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)65号 判決 1977年11月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し原判決別紙目録記載の機械を引渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人(および同人と共同して職務を行なつていたもと更生会社田中鉄筋株式会社管財人亡木下重範)は適式の呼出を受けながら当審における口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた答弁書によれば、主文同旨の判決を求めるというにある。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるので、これを引用する(ただし、原判決三枚目裏六行目から七行目にかけて「(会社更生の申立をなしたとき)」とあるのを「(会社更生の申立の原因となる事実が発生したとき)」と訂正する。

(控訴人の主張)

所有権留保特約付売買を譲渡担保契約、売渡担保契約と同一に取扱うべきではない。

すなわち、後者の場合は、金銭債権の担保の目的のためにのみ行なわれるので、その実行は債務者保護の立場から一応物件を競売等により処分し、残額があれば債務者に返還すべきものとされている。

しかし、これらの場合と異なり、本件機械は田中鉄筋が預つているにすぎず、所有権は法律的にも控訴人に存するのみならず、目的物件は機械であつて耐用年限があり、その年限を経過すればスクラツプとなつて屑鉄の価格しか残らないことになる。およそ、本件類似の物件の割賦販売にあたつては、その割賦回数はその目的物件の耐用年限、すなわち、稼動年数および債務者の支払能力を考慮して当事者が決定するものであるから、債務者はその間に十分その機械を稼動させて収益を得る反面、債権者の担保の目的である機械はそれだけスクラツプに近ずくのである。会社更生法が債務者保護の見地から制定されたことはこれを認めるにやぶさかでないが、反面債権者保護を無視することはできないと解されるから、所有権留保特約付売買を一般不動産或は家財道具に対する譲渡担保契約、売渡担保契約等と同一に解するべきではなく、所有権留保特約付売買の売主たる控訴人に取戻権を認めるべきである。

理由

一  控訴人主張の請求原因事実についてはすべて当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五、六号証および弁論の全趣旨によると本件機械の売買代金のうち三、七九七、三三五円の支払がなされていること、控訴人の田中鉄筋に対する本件契約解除の意思表示は昭和五〇年五月二七日到達したことが認められる。

二  そこで、会社更生手続の上で所有権留保約款付割賦販売(以下所有権留保売買という。)の売主の地位をどのように解すべきかについて検討する。

所有権留保売買において売主が代金完済まで所有権を留保するのは、買主が残代金の支払をなさない場合は、売買契約を解除して目的物を回収し、それを任意の方法で換金するなどして換価金から残代金の満足を得ることを目的とするものであつて、売買残代金についてその債権担保のための手段としてなすものであると解される。従つて、売主の所有権留保特約上の権利はその実質は担保権と解するが相当である。

右のように所有権留保売買における売主の所有権留保特約上の権利は、その実質は担保権であるから、買主について会社更生手続が開始された場合に、売主はその所有権を主張して売買目的物の取戻を請求することはできず、更生担保権者に準じて、会社更生手続においてその権利を行使すべきであると解する。けだし、売主に取戻権を認めると、更生手続外で満足を受けることになり、更生担保権者ことに譲渡担保権者と比較して極めて有利な取扱を受けることになつて不公平であり、また所有権留保売買の目的物は更生会社にとつて重要な物的施設である場合も多いと考えられ、取戻権を認めると会社更生の目的が達せられなくなるおそれもあるからである。

三 そうだとすると、本件契約は、控訴人主張の特約(イ)(手形が不渡となつたとき)、(ハ)(会社更生の申立の原因となる事実が発生したとき)に該当するので、形式的には有効に解除されたものというべきであるが、前述のとおり控訴人(売主)の所有権留保特約上の権利は、その実質は担保権と解されるから、右の解除は担保権の実行手段に過ぎないものというべきであり、更生手続開始の決定までに本件機械が取戻されていない以上、右決定後は控訴人は、会社更生手続によつて更生担保権者に準じてその権利を行使すべきであつて、その所有権を主張して本件機械の取戻を請求することはできないものというべきである。

なお、田中鉄筋が手形の支払を拒絶し、これを不渡としたのは、会社更生法三九条によるいわゆる旧債弁済禁止の保全処分によるものであり、このような場合には、保全処分をうけた会社はそれに拘束されるのであるから、その保全処分の効果による不払いを会社の履行遅滞として解除原因とするのは相当でないとする見解があるが、右の旧債弁済禁止の保全処分は、これを受けた会社に対し任意弁済をすることを禁ずるだけであつて、それによつて会社債務が履行を猶予せられ、その履行期到来の効果を失わせるものでもなく、会社は履行遅滞を免れるものではないというべきであるから、右見解を採用しない。

四 したがつて、所有権に基づいて本件機械の引渡を求める控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきであり、原判決は結局正当であつて本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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